第回自由律句会十八回『幸せます』選句結果 令和七年七月
遺影には涙させない屋根を張る 田中 直心
「遺影が雨で濡れると、故人が涙しているように見える。だから雨を防ぐべく屋根を張る」ということだろうが、言葉を最小限まで削ったことで凛とした一句になった。(西生)
亡き人が生きていたら残念がるかもしれないことをやらないという意気込みが表現されているのを感じました。(権代)
屋根のリフォームの見積りにため息をついているのですが、大事なものを守るためにやらなきゃですね。(佐川)
風を感じない 風になったから 権代 祥一
風になると風を感じない、この句の作者の中に、どんな風が吹いていたのかなと、考えさせられました。(田中)
月痩せてオリオンの肩を刺すつもり 立日十
月の女神:アルテミスと狩人のオリオン、ここにアルテミスの双子の兄アポロンを入れ考えると、オリオン座は、冬に見える星座ですし、アルテミスがオリオンを刺す事はないと思われますが、月の先が細くなるから近くのオリオン座を狙うように見えるでしょう。楽しい句ですね。(田中)
その一瞬のために一日一日研ぎ澄ましていく月の様子が浮かびます。オリオンの肩でキラリと光る月を見たくなります。(葉子)
余つた手から花にするです 西生ゆかり
何かよくわからない句ですが、余っていない手には花束があるということなのか? そういうシチュエーションを想像しました。否、余っていない手に花束が無いから、余った手を花に見立てているのか? やっぱりよくわからないけれど取ってしまいました。(権代)
ざぶりざぶり小鷺に水しぶき小魚きらり 葉子
鷺の食事は静かなイメージがあるのですが、この鷺は狩が上手くないのか暴れてる感じで面白い発見ですね。(立日十)
防府にきて驚いたのは、歩いていると当たり前の顔をして鷺が佇んでいること。鋭角恐怖症のわたしはクチバシに心が全部持っていかれるのですが、動物を愛する作者はさすがに視点がちがうと感心しました(佐川)
空に抱かれて石に眠る 佐川智英実
あえて主語を付けるとすれば「私は」ということなのだろうが、この場合の「私」はもはや個体であることをやめ、空や石の一部、あるいは空そのものや石そのものになっているのだろう。(西生)
重たくて冷たいはずの石が、心地よく温かく感じます。(葉子)
「千の風になって」の世界感を感じました。(権代)
ノート丸めてのぞいた十五の淡い空 立日十
若さを感じ、十五歳の少女を感じ、とても爽やかな句ですね。 こんな時期が私にもあったんですね。ノートの先には、これからの希望が見えているのでしょうか?。(田中)
なんとなく懐かしく(徳冨)
ラムネを飲んだ後のような爽快感。勉強が苦手な私はよくノートを丸めていた事を思い出しました。(佐川)
ノート丸めてという動作に青春時代の焦燥感やイライラ感やじっとしていられないくすぶった情熱のようなものがあったことを思い出させてくれました。でも覗いたら淡い空しか見えないという切なさ。天を2つ付けられるとしたらこれも天にしたい句です。(権代)
眼を閉じて眠れる幸せ 権代 祥一
静かな安心感、ありがたいな···と改めて思いました。(葉子)
日常のつまらない事に囚われてしまいがちですが、本当にそのとおりですね。(佐川)
キラキラ波を月と二人で渡っておいで 立日十
夢の中でこんなふうに呼ばれたら、迷わず行ってしまいそうです。(葉子)
詠むだけで心満たされ、よい一日が過ごせそう(佐川)
僕らは最高レモネードの向こう岸まで 佐川智英実
最高と言える誰かがいることの充実感。とりあえず行けるところまで行ってみようという未来。(立日十)
今日こそは優しく在りたい卵焼き 葉子
いつもイライラする日が続いている私に句読点を打ち立ち止まる。(立日十)
朝の忙しい時間のイライラでつい家族にきつく言ってしまう。そして自己嫌悪。ほんとうはみんな優しくなりたい。(佐川)
卵焼きはうまく作れたことがないので、優しくありたいというのはうまく作れる人のもっと上の人の境地なんだろうと思いました。卵焼きをうまく作りたい私。(権代)
森の記憶はグレーテルとつないだ手 佐川智英実
グリム童話からの句ですね。森の中には魔女のお菓子の家があります。この家は子供たちの欲望を利用した危険な誘惑が潜んでいます、兄妹の強い絆と困難を乗り越える勇気が、句の森の記憶は、妹を助けようとし繋いだ手ですねと、思い出しました。お菓子の家とか兄の名前が出てきたら、もっと楽しかったかと思いました。(田中)
全てが終わった後にヘンゼルの胸に残るのは、お菓子の家のことでも魔女を殺したことでもなく、〈グレーテルとつないだ手〉の記憶。二人が兄妹であることを踏まえると、どことなく官能的な雰囲気も感じられる。
(西生)
いつでも不思議な世界に迷い込めますね。(立日十)
何を忘れたのかを忘れて雨模様 権代 祥一
私もよくありますから(徳冨)
そして、忘れたことも忘れています。恐怖です。(佐川)
触れてみる生命線の今日あたり 佐川智英実
短かった生命線が伸びたのに最近短くなってきたので、私はいつも気にして手のひらをじっと見つめていますが、作者はそれを触っている・・・。感覚として生きている実感を味わっている様、人生を愛おしむ感覚が伝わってきて凄くいいなぁと思いました。リズムもたまたま575なので当然良いわけですね。(権代)
振り向くたびに白くなる犬 西生ゆかり
年齢でしょうか、うちの犬も年々白くなっていったな···と懐かしさを感じます。(葉子)
毛むくじゃらの犬ですが、白髪になるって話は聞いたことがないので観念的な白という意味なんでしょうか? 白くなっているのは実は自分の目だったりします。そんな「老い」ということを犬で表現されているのが面白いと思いました。(権代)
最後は白く輝いて表情さえも見えない、大好きな犬とのお別れのシーンを想像しました。(佐川)
亡母からは一言も聞いた事ない短歌会 田中 直心
お母様もきっと詠むことを楽しまれていたことと思います。(葉子)
短律文学に惹かれるのはDNAだったのですね(佐川)
瓶ラムネは夏休みの味がする 佐川智英実
ラムネの色や瓶の冷たさ、暑い日差しまで、全てが「夏休みの味」に凝縮されているようで素敵です。(葉子)
瓶ラムネは最近ほとんど見なくなったけれど、小学生の頃、祖父の家の近くの駄菓子屋でおばさんがビー玉を押す器具でプシュッと押す動作、泡が溢れて濡れた手でお金を受け取る動作、どこでも見られた光景が確かに浮かびます。(権代)
風鈴の気品封じて暴れる熱波 田中 直心
本当に猛暑で風鈴の音では処方せずエアコンの中に籠っています(徳富)
風鈴の音では涼めなくなってきています。暴れるという言葉が地球規模の異変を端的に表現していると思いました。(権代)
壊れたら愛せる崖がある 西生ゆかり
作者の立ち位置が気になります。読み方にいろんなパターンがあるようです。(立日十)
昭和のサスペンスドラマを彷彿します。愛は壊れ、すべてを失っても帰れる場所がある。心惹かれる句です(佐川)
壊したいのになかなか壊れない崖が自分の中にもある気がします。(葉子)
赤い手編みの被せた八十八箇所 権代 祥一
被せて八十八箇所をまわられたのですね、赤い手編みを作られたのもご立派ですね。いつかの夜お地蔵様がお返しをソリに乗せ、お礼に来るかもしれませんね。(田中)
今回は夏休み特別ご招待として、、青穂でおなじみの立日十さんに参加して頂きました。
お知らせ
会員である権代祥一さんが、第十九回防府市民自由律句大会、自由律句壇クラブ群妙賞を受賞しました
こみ上げる 一人で食べる特上の理由(わけ)
次回の締切は十月十日です。よろしくお願いします。
